多汗症の原因は様々ですが、中には精神的な要因が大きく関わっているケースもあります。いわゆる「精神性発汗」と呼ばれるもので、緊張や不安、ストレスを感じたときに特に多くの汗をかく状態を指します。このような場合、皮膚科での治療と並行して、あるいは皮膚科での治療で十分な効果が得られない場合に、心療内科や精神科の受診が有効な選択肢となることがあります。心療内科や精神科では、まずカウンセリングを通じて、患者さんが抱えるストレスや不安の原因、発汗の状況などを丁寧に聞き取ります。多汗症が日常生活や社会生活にどのような影響を与えているか、患者さん自身がどのように感じているかを理解することが治療の第一歩となります。精神性発汗の背景には、社交不安障害(SAD)や全般性不安障害といった不安障害が隠れていることもあります。これらの疾患が原因である場合、その治療を行うことで発汗症状の改善が期待できます。治療法としては、精神療法(カウンセリング、認知行動療法など)や薬物療法が中心となります。認知行動療法では、発汗に対する誤った認知(例えば、「汗をかいたら他人に嫌われる」といった考え)を修正し、不安や緊張をコントロールするスキルを身につけることを目指します。また、リラクセーション法(自律訓練法、漸進的筋弛緩法など)を指導し、心身の緊張を和らげる手助けをすることもあります。薬物療法としては、抗不安薬や抗うつ薬(SSRIなど)が用いられることがあります。これらの薬は、脳内の神経伝達物質のバランスを整えることで、不安や緊張を軽減し、結果として発汗を抑える効果が期待できます。ただし、これらの薬には副作用が現れることもあるため、医師の指示に従って適切に使用することが重要です。大切なのは、精神的な要因による多汗症も、専門家の助けを借りれば改善する可能性があるということです。「気の持ちようだ」と一人で抱え込まず、つらい症状が続く場合は、心療内科や精神科の受診を検討してみる価値は十分にあります。もちろん、まずは皮膚科で器質的な異常がないかを確認してもらうことが前提となります。皮膚科医が必要と判断した場合に、心療内科や精神科を紹介されることもあります。どちらの科を受診するにしても、医師との信頼関係を築き、二人三脚で治療に取り組むことが大切です。