RSウイルス感染症は、その名前(Respiratory Syncytial Virus)が示す通り、呼吸器(Respiratory)に感染し、細胞が融合して塊のようになる(Syncytial)という特徴を持つウイルスによって引き起こされます。二歳までには、ほぼ全ての子どもが一度は感染すると言われている、非常にありふれた感染症ですが、その症状の現れ方は、年齢によって大きく異なります。一般的な経過を知っておくことは、病状の変化を見極め、適切なタイミングで対応するための、重要な知識となります。まず、ウイルスに感染してから、二日から八日程度、平均して四日から六日の「潜伏期間」があります。その後、発熱(三十八度から三十九度程度)、鼻水、咳といった、いわゆる「風邪症状」で発症します。年長児や、大人が感染した場合は、多くの場合、この上気道炎の症状だけで、一週間程度で軽快します。しかし、初めて感染する乳幼児、特に生後六ヶ月未満の赤ちゃんの場合は、ここから症状が重症化していく可能性があります。ウイルスが、気管支のさらに奥、細い気管支(細気管支)や、肺にまで到達し、強い炎症(下気道炎)を引き起こすのです。発症から数日後、咳は次第に激しくなり、痰が絡んだような「ゼロゼロ、ゴホゴホ」という湿った咳に変わっていきます。そして、細気管支が、炎症によって腫れ上がり、分泌物で狭くなることで、「ゼーゼー、ヒューヒュー」という、特徴的な呼吸音(喘鳴)が聞こえるようになります。この「細気管支炎」の状態が、RSウイルス感染症のピークであり、最も注意が必要な時期です。この時期に、呼吸困難や、哺乳不良といった、前述の「入院の目安」となる危険なサインが現れやすくなります。この症状のピークは、通常、発症から四日から六日目あたりにやってきます。そして、このピークを乗り越えれば、症状は徐々に、しかし確実に回復へと向かっていきます。咳や鼻水といった症状が、完全に治まるまでには、二週間から三週間程度かかることも珍しくありません。RSウイルス感染症は、最初の数日間の、穏やかな風邪症状に油断せず、その後の「下気道炎への進展」を、注意深く見守ることが、何よりも大切な病気なのです。