日常生活で気になるほどの多くの汗をかいてしまう多汗症は、ご本人にとって深刻な悩みとなることがあります。手の汗で書類が濡れてしまう、足の汗で靴の中が常に湿っている、脇の汗じみが気になって好きな服が着られないなど、その影響は多岐にわたります。このような多汗症の症状を改善したいと考えたとき、まず「何科を受診すれば良いのだろうか」という疑問が浮かぶことでしょう。多汗症の診療を専門的に行っているのは、主に皮膚科です。皮膚は人体最大の臓器であり、汗腺も皮膚の付属器の一つです。そのため、汗に関するトラブルの多くは皮膚科医が専門的に扱っています。皮膚科では、まず問診によってどの部位に、いつから、どの程度の汗をかくのか、日常生活への支障の度合いなどを詳しく聞き取ります。また、他の病気が原因で汗が多くなっている可能性(続発性多汗症)がないかを確認するために、甲状腺機能亢進症や糖尿病、褐色細胞腫といった内科的疾患のスクリーニングが行われることもあります。特に原因となる病気がない原発性多汗症と診断された場合、皮膚科では様々な治療法が提案されます。軽症の場合は、塩化アルミニウム製剤などの外用薬(塗り薬)が処方されることが一般的です。これは汗の出口を塞ぐことで発汗を抑える効果があります。また、手のひらや足の裏の多汗症に対しては、イオントフォレーシス療法という、水道水に浸した患部に微弱な電流を流す治療法も行われます。これは週に数回の通院が必要になることが多いですが、副作用が少なく安全性の高い治療法です。さらに、脇の多汗症に対しては、ボツリヌス毒素製剤(ボトックス)の局所注射が効果的です。これは汗を出す指令を伝える神経伝達物質の働きをブロックすることで、発汗を強力に抑える治療法で、保険適用もされています。効果の持続期間は数ヶ月程度ですが、日常生活の質の改善が期待できます。これらの治療法で効果が不十分な場合や、より根本的な治療を望む場合には、内服薬(抗コリン薬など)の使用や、交感神経遮断手術(ETS)といった外科的治療が検討されることもありますが、手術には代償性発汗などの副作用のリスクもあるため、医師と十分に相談することが不可欠です。まずは皮膚科を受診し、専門医の診断とアドバイスを受けることが、多汗症の悩みを解決するための第一歩となるでしょう。