秋から冬にかけて、乳幼児を中心に流行する「RSウイルス感染症」。最初は、鼻水や咳といった、ごく普通の風邪のような症状で始まるため、多くの保護者の方が「いつもの風邪かな」と、つい様子を見てしまいがちです。しかし、特に生後六ヶ月未満の赤ちゃんや、早産児、そして心臓や肺に基礎疾患を持つお子様にとっては、このウイルスは、時に命に関わるほどの重篤な呼吸器症状を引き起こす、非常に危険な存在となり得ます。RSウイルス感染症で、最も警戒すべきなのが、「細気管支炎」や「肺炎」といった、下気道(気管支より奥)の炎症への進展です。家庭での看病を続けるか、それともすぐに病院へ、場合によっては救急車を呼んででも受診すべきか。その運命を分ける「入院の目安」となる、危険なサインを、保護者の方は必ず知っておく必要があります。まず、最も重要なチェックポイントが「呼吸の状態」です。もし、お子様の呼吸が「速い(多呼吸)」「浅い」「ゼーゼー、ヒューヒューという、苦しそうな音がする(喘鳴)」「息を吸う時に、鎖骨の上や、肋骨の間、みぞおちが、ペコペコとへこむ(陥没呼吸)」といった状態が見られたら、それは気道がひどく狭くなり、体が深刻な酸素不足に陥っていることを示す、極めて危険なサインです。また、「顔色や唇の色が悪い(青白い、紫色など)」、あるいは「爪の色が紫色になっている(チアノーゼ)」といった症状も、重度の低酸素状態を示唆します。次に、「哺乳力・水分摂取の状態」も、重要な判断基準です。「母乳やミルクの飲みが、普段の半分以下になっている」「ぐったりしていて、水分を摂る元気もない」「おしっこの回数や量が、明らかに減っている」といった症状は、脱水症状が進行しているサインです。脱水は、乳幼児の体力を急速に奪い、全身状態を悪化させます。これらの「呼吸状態の悪化」と「水分摂取不良」という二つの危険なサインが、一つでも見られた場合は、もはや様子を見ている時間はありません。夜間や休日であっても、ためらわずに、すぐに救急外来を受診するか、判断に迷う場合は、救急相談窓口(#8000)に連絡し、指示を仰いでください。