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なぜ大人のヘルパンギーナはつらいのか
「子供の頃は、あんなに軽く済んだはずなのに…」。子供の頃にヘルパンギーナを経験したことがある大人でさえ、再び感染すると、その症状の重さに愕然とすることがあります。熱の有無にかかわらず、なぜ大人のヘルパンギーナは、子供の場合と比較して、これほどまでに「つらい」と感じられるのでしょうか。その背景には、医学的な理由と、社会的な理由が、複雑に絡み合っています。まず、医学的な理由として、「免疫反応の違い」が挙げられます。ヘルパンギーナの原因となるエンテロウイルス属には、非常に多くの種類(血清型)が存在します。子供の頃に一度感染しても、それは、その特定の型のウイルスに対する免疫がついただけです。大人になって、全く異なる型のウイルスに感染した場合、体はそれを未知の侵入者とみなし、子供の頃よりも、はるかに強力で、過剰な免疫反応を起こすことがあります。この、サイトカインなどを含む、激しい免疫反応こそが、高熱や、強い倦怠感、関節痛といった、激烈な全身症状の、直接的な原因となるのです。また、口の中にできる水疱や口内炎も、大人の方が、より痛みを強く感じる傾向にあります。次に、より深刻なのが「社会的な理由」です。子供であれば、病気の間は、学校や保育園を休み、家で安静にして、治療に専念することができます。しかし、大人はそうはいきません。「仕事が休めない」「重要な会議がある」「家事や育児を、代わってくれる人がいない」。そういった、社会的、家庭的な責任感から、十分に体を休めることができず、無理をしてしまうことが多いのです。この、休めないというストレスと、肉体的な疲労が、体の免疫力をさらに低下させ、症状の悪化と、回復の遅れを招くという、悪循環に陥ってしまいます。さらに、喉の痛みで食事が摂れないことによる、体力や気力の消耗も、子供に比べて、大人はより深刻に感じられます。たかが夏風邪、と侮るなかれ。大人のヘルパンギーナは、私たちの体の免疫システムと、そして、私たちが背負う社会的責任という、二つの側面から、容赦なく攻撃を仕掛けてくる、非常に手強い敵なのです。